さらです。
たとえば街中で、
着物を小粋に着ている方を見かけると、
素敵だなぁ〜と、思わず見とれてしまいませんか?
そんな着物を仕立てる和裁の達人が、
さぬき市にいらっしゃいます。
「卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者」
として厚生労働大臣が表彰する「現代の名工」に選ばれた、
長尾理恵さんです。
長尾さんに、和裁を始められたきっかけや、
和裁とはどういうものなのか、についてお話を伺いました。
💠和裁を始められたきっかけは?
長尾さんは高校卒業後、職業訓練校で和裁を学びました。
「もともと物を作る仕事に興味があって、
手に職を付けたいと思っていた。
今思うと目指していたのは『技能士』だったが、
当時はそのような名称は無かった」
職業訓練校のカリキュラムの中から、
自分に合う条件のものを選んだら、
それがたまたま『和裁』だったのだそうです。
当時の職業訓練校は、
今のように学校で皆がそろって勉強するのではなく、
個人の和裁教室で勉強しつつ、
定期的に学校に集まるというスタイルでした。
香川県は、和裁教室同士が互いに協力しあって
和裁の技能を高める努力が熱心にされていたので、
和裁のレベルが非常に高く、
全国大会でも上位入賞の常連だったそうです。
長尾さんが訓練生だった当時、
レベルに応じた試験が行われていたのですが、
最初から1番だったわけではなかったんだとか。
「できないということを悔しいと思うほうだった。
人に負けた悔しさではなく、
自分自身が目指す目標に届かないことへの悔しさだった」
毎日毎日、とにかく縫い続けて技術を磨いたんだそうです。
職業訓練校を卒業後、同校の指導員となり、後進の指導に当たりました。
「これが、和裁を続けていく上での大きな転機だった」
と長尾さんは言います。
💠着物の良さを伝えたい
現在、長尾さんは、香川県和裁職業訓練協会の会長など、
様々な活動をされながら、着物の良さを伝えています。
2013年11月16日(土)・17日(日)にサンメッセ香川で開催された
「かがわ技能フェスティバル&匠の技フェア」では、
子ども達に七五三の衣装を着てもらって、
ファミリーファッションショーを行いました。
「着物の良さを伝えたい、まずは知ってもらいたい」
ということで、長尾さん自身が、折に触れて積極的に
着物を着るようにしているそうです。
💠和裁の作業を見せていただきました。
長尾さんに、和裁の道具などを見せていただきました。
これは電気鏝(こて)と呼ばれるもの。
箱の中に電気釜があり、こての金属部分が熱くなります。
どのように使うかというと、
縫い目に「きせ」をかけるためアイロンとして使ったり、
(きせをかけるとは、縫い目が表から見えないように布を折って仕上げる事)
『こてべら』といって、こうやって生地にしるしをつけるのだそう。
木の棒に見えるのが「くけ台」。
それに「かけはり」という金具をつけています。
和裁で縫製するとき、直線的な運針がしやすいよう、
着物の生地を引っ張るために使用するのだそうです。
和裁の針は短めで、頭(糸を通すところの膨らみ)がありません。
まち針も、この針を使用します。
針が無くなってはたいへんなので、仕事を始める前、途中、終わった後に、針の数を必ずチェックするそうです。
(それに加えて、現代では検針機という機械でも残針をチェックをします)
安全性に関わる重要なことなので、和裁技能士の試験でも、残針があれば失格となるそうですよ。
和裁はとにかく真っ直ぐ手縫いするのが特徴。
生地も直線に切って使用するので、まったく無駄がありません。
洋服ほどデザインにバリエーションがないため、形も縫い方もシンプルですが、
「シンプルだからこそ、和裁は、やればやるほど奥が深い」
と、長尾さんはおっしゃっていました。
最近は、リメイクの依頼も多いのだそうですよ。
例えば、
・自分の親が着ていた着物を、子どもの着物にリメイクしたい
・昔の着物を、冬場に着る「はんてん」にしたい
など、様々な依頼があるそうです。
長尾さんに「達人になる秘訣」をお聞きしたところ、
「とにかく『続けること』ではないでしょうか。
本人の努力はもちろんのこと、環境や運にも恵まれなければ、
続けることは出来ません。自分はその機会に恵まれました」
という答えが返ってきました。
長尾さんの謙虚なお人柄と、和裁の一針一針コツコツと縫っていく姿が重なりました。
今回、長尾さんのお話を聞きながら、私が子どもの頃、家で祖母が和裁をしていたことを思い出していました。
職人でもなんでもなく、もちろん素人ですが、私の着物のすそ上げをしたり、浴衣を縫ってくれたりしていたんです。
昔は和裁が日常生活の中にあったんですね。
今回、長尾さんにお話を伺って、ちょっと遠い世界のように思っていた着物の世界を、ぐっと身近に感じることができました。
子どものイベントなど、特別な日に着物を着てみようかな、と密かに思っています。

香川県和裁職業訓練協会(事務局: 有限会社 矢野和裁)
香川県高松市屋島中町560-1【地図】
TEL:087-843-8314