春はお遍路さんのはじまりの季節。
暖かくなり、すこしずつさぬき市のへんろ道にもお遍路さんの姿が戻ってきました。
その1ヶ月前にあたる3月。
さぬき市志度の国道11号線沿いでは1件の空き家をリノベーションした遍路宿が完成。
当時大学4年生の伊藤萌子さん(写真中央)の卒業研究により作られたものです。
建築が好き、住宅が好き。
そんな彼女がなぜ「遍路宿」を手掛けることになったのでしょうか?
まだ肌寒い3月。
国道11号線沿い、JR志度駅近くの1軒の空き家で改築工事が行われていました。
工事業者とともに作業しているのは、香川大学工学部 安全システム建設工学科4年(2018年3月時点)の伊藤萌子さん。
愛媛県出身の彼女は家族がキッチンメーカーに勤めていたため、住宅展示会によく足を運んだことから住宅建築が好きになったそう。
どうしても設計をしてみたくて高専から香川大学に編入し、建築計画をする研究室に入り集落の行動調査などを行ってきました。
そんな研究室の先輩が遍路の「善根宿(お遍路さんを無料で宿泊させる宿)」の研究したことから、四国での遍路宿が足りないことを発見。
四国生まれの自分が何かお遍路さんのために協力出来ないかと、卒業研究の1つとして「遍路宿を作る」ことを始めました。
まず遍路宿のための改修に協力を名乗りでてくれた「志度寺」の副住職 十河さんからお遍路のことを教わったり、志度寺や前山おへんろ交流サロンでお遍路さんにアンケートを実施。
結果から、野宿をしている人が2割いること、外国人のお遍路さんが多いことがわかったそう。
お遍路さんはなぜ野宿するのか?
その理由として、民宿や遍路宿は4000円ほどの価格で、何日もかけて歩き遍路をするお遍路さんにとっては結構な出費になること。
また、1000円以下で宿泊できる「善根宿」が少ないことも理由の1つになっています。
様々なお遍路さんの意見を受けて決まったのが…
「安くて、場所がいい(アクセスがよい)善根宿を作る」こと。
さらに2017年8月にスペインの巡礼の地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に旅して、巡礼の道沿いに建つ「アルベルゲ」での調査も実施。
(伊藤萌子さん)
「スペインでは初めて知ることばかりでした!
『アルベルゲ』は1000円ほどで一泊できるし、安いけど水回りやベッドも清潔感がありました。
また、四国遍路の1人で歩くイメージとは真逆で、みんなでワイワイと交流している姿を各宿で見られたんです。
香川でも四国遍路のいいところを残しつつ、スペインのいいところを取り入れられたらと思いました」
帰国した翌月の2017年9月には志度寺の十河さんから候補の物件を3件ほど見せてもらい、駅に近く、へんろ道沿いで、お寺にも近いこの物件に決定!
まずは喫茶と不動産事務所だった2棟の壁をぶちぬいて広いスペースを作りました。
1階は伊藤さんのこだわりの1つ「お遍路さん同士が交流できるような場所」になっています。
畳敷きの腰掛け台がなんともホッ♪
外国の方も畳が好き、というアンケート結果を見て作ったのだそう。
また、寝袋を持ち歩くお遍路さんもいるので、このスペースで寝てもらえたら…という思いも。
1階の壁には伊藤さんと後輩の矢野くんが大きな世界地図を手書き。
宿泊するお遍路さんに、どの国から来たかマークを記して帰って欲しいとのこと。
同じく1階には洗面、洗濯機、シャワーを設置。
表には伊藤さんが使いたかったという木材をストライプ状に設置して目隠しに。
掲示板もあるので、ここでお遍路さんは情報収集することもできます!
2階もあります! 登ってみましょう〜!
2階は畳9畳分の寝室が2部屋。
掛け布団は完備していて、みんなでごろ寝するタイプ。
「和室は残したい!」という伊藤さんのこだわりがここに現れています。
(伊藤萌子さん)
「こんなに具体的なことをやると思ってはいなかったです。
天井の貼り替えもしたし、壁もみんなで塗りました。
図面をひいて、自分が思っていたものが形になるのが楽しいなと思いました。
途中クラウドファウンディングで応援してくださる方がたくさん現れたり、知って貰えて嬉しかったです」
伊藤さんの卒業制作でもある「遍路宿」のバックアップをされている志度寺の十河さんの感想は…
(志度寺 十河陽之助さん:写真右)
「伊藤さんの属する研究室と繋がりがあって、今回のプロジェクトをバックアップすることになりました。
志度にも空き家がたくさんあるので、改修してほしいと提案してみましたが、こんな風に1つの課題を学生と大人が取り組むというのがいいですね。
モノを完成させる以外のことを教わって欲しいし、教えられたらとバックアップしています。
また地元の学校に来ている若い世代に、香川に作品を残してもらうことで、ここに愛着を持ってもらえたらと思っています。
まだまだ空き家はあるのでこういった善根宿を増やしたいですね」
完成した善根宿はこの春オープン。
お遍路さんのみ宿泊が可能で、料金はお気持ちを頂くというシステムになりそう。(志度寺が受付の窓口となります)
(伊藤萌子さん)
「少しでもお遍路さんが安全で快適に宿泊してくれたらと思います。
日本人も外国の方も。いろんな方に泊まってもらいたいですね!」
善根宿を作った伊藤さんは4月から住宅関係の会社へ就職。
社会人としてずっとやりたかった仕事にチャレンジするそう。
伊藤さんの手から善根宿は一旦離れてしまいますが、彼女の想いは宿に訪れる多くのお遍路さんが「賑わい」という形で継続してくれるものと期待しています!