2022年11月20日、さぬき市寒川農村環境改善センターにて
さぬき市寒川町出身で「江戸で一、二を争う篆刻家」と言われた細川林谷にまつわるシンポジウム
「未来を拓く 細川林谷記念館・美術館のあり方を求めて」が開催されました。
さぬき市では令和5年から細川林谷の功績をたたえた記念館を着工予定。
その前に林谷の生きた世界や作風を学ぼうと多くの方が会場に集まりました。
細川林谷の魅力とは?
令和6年ごろオープン予定の記念館の概要や展示作品は?
シンポジウムで得られた情報をご紹介します!!
細川林谷とは?
(「さぬき市寒川図書館」前に立つ細川林谷にまつわる石碑)
細川林谷はさぬき市寒川町出身、江戸時代後期に活躍した篆刻(てんこく)家です。
安永9年に寒川町に生まれ、幼い頃から同じ讃岐の篆刻家 阿部良山に入門して篆刻を学びました。
さらに書を後藤漆谷から、絵を長町竹石より学び、江戸時代後期の学問が活発になってきた頃には遊学のため長崎へ。
そこから林谷の日本行脚の旅がはじまります。
京都・信越・東北とさまざまな場所へと赴き、最終的には江戸で留まり篆刻家として人気を博しました。
「篆刻」とは書をやっている人が石や木に自ら文字を彫って制作する印のこと。
江戸時代に「篆刻」で人気を博した細川林谷がさぬき市の出身であるということは、まだ広く知られてはいません。
そんな中、平成30年には日合通信電線株式会社会長であり細川林谷の兄の子孫に当たる寒川町出身の細川勝博さんが
「故郷に林谷を顕彰するための建物を建ててほしい。
その場所を市民のみなさんが本物の芸術に触れられる場所にしてほしい。」
と3億円の寄付を申し出たことをきっかけに、さぬき市では『(仮称)細川林谷記念館』の建設を進めることになりました。
2022年11月20日(日)にさぬき市寒川町「寒川農村環境改善センター」で行われたさぬき市文化シンポジウムでは、記念館の建設計画の現状が紹介されるとともに、細川林谷について学びを深めるシンポジウムが開催されました。
「(仮称)細川林谷記念館」はどんな場所に?
シンポジウムでは、さぬき市生涯学習課のみなさんより「(仮称)細川林谷記念館」の計画の現状が発表されました。
気になる立地は公共施設が集合し市民が集まりやすい「寒川農村環境改善センター」東側の駐車場の一角。
令和2年ごろから間取り・面積・基本設計を考えていましたが、新型コロナウイルスの影響や戦争等で世界情勢が変化。
建設資材が高騰してきたため再考する部分も出てきましたが、引き続き建設計画は進んでいます。
今のところ令和5年度に着工し、令和6年度にはオープン予定となっています。
記念館のコンセプトは「文人たちの集うところ」。
美術館としての役割だけではなく、地域のコミュニティの拠点・子どもたちが本物に出会い学ぶための施設として活用される予定です。
建物は鉄骨平家建てで一部木造建築。
敷地内には…
・細川林谷の掛け軸・巻物・画を集めた「林谷展示室」
・市民や子どもたちの作品を展示する「企画展示室」
・収蔵室
・体験ができる「講座室」
・中庭・交流スペース
などが配置されます。
これまで高さのある大きな作品が展示できなかった「21世紀館さんがわ」の課題も解決できる展示室ができるため、市民にとっても発表の場が増える喜びに。
細川林谷以外の美術作品も並ぶ予定で、幅広い芸術の世界に触れられる場所となりそうです。
シンポジウムで読み解く林谷の魅力と歴史背景
続いては高松市立香東中学校の教員であり細川林谷の研究科でもある田淵元博さんによる基調講演「細川林谷の印と画〜匈奴の人々との関わりを中心として〜」が開催されました。
東洋大学文学部を卒業され、四国大学大学院では中国清朝の篆刻家であり書家・画家の陳鴻寿(ちんこうじゅ)について研究されて来られた田淵先生。
さまざまな視点で細川林谷の魅力を解説してくださいました。
印象的だったのは「印とは一寸四方の世界」という一言。
このわずかな大きさが心臓の大きさと考えられており、印を彫るのはその人の心そのものとされていたそう。
書に添えるおまけのようなものと思っていた印ですが、この言葉のおかげでその重みを感じることができました。
「林谷は印を彫るための手法に優れていたと言われ、日本で三本の指に入る篆刻家。
印の世界にも派閥や地域性があったが、それすらも超えてしまったのが彼である。」
という田淵先生のコメントに、林谷は天才肌かつ篆刻界のパイオニアであったことがわかります。
土台には同じ讃岐出身の師匠たちから受け継いだものがあり
江戸へ向かい自分ならではの新しい創造に挑戦し
お弟子さんをしっかり残して次世代へと文化を繋ぐ役割も果たした。
それが細川林谷という人物であったということがよくわかりました。
記念館への期待が高まるトークセッションも
続いては「(仮称)細川林谷記念館」での展示作品の紹介や建設に向けた期待についてのトークセッション。
多額の寄付をされた日合通信電線株式会社会長の細川勝博さん、さぬき市の大山市長、林谷研究家の田淵先生、瀬戸内海歴史民俗資料館の学芸員 松岡明子さんがご登壇されました。
美術史が専門の瀬戸内海歴史民俗資料館学芸員の松岡明子さんからは記念館に展示される予定の作品について詳しくご紹介がありました。
林谷は篆刻家であり旅する文人。
下関・長崎・信越・東北・京都・江戸など、旅の風景を描いた画や詩をまとめた作品がたくさん残っています。
中には長崎に旅する途中に故郷の屋島や八栗を眺めたときの視点で描かれたものも。
面白いのはその画の中にはぽつりと赤い服をきた人物がたびたび描かれているところ。
それこそが旅する林谷本人の姿であり、記念館にもその人物が描かれた作品が展示される予定ですのでぜひ探してみましょう!
日合通信電線株式会社会長・細川林谷の兄の子孫 細川勝博さん
「これまでも地元の方から細川林谷の記念する場所を作りたいという声を聞いてきました。
なんとかしなければいけないという思いが年々膨らみ、行政で美術館を建てられないかと相談したこともありました。
自分も細川家の子孫でありながら林谷さんのことを何も知らなかったけれど、作品を集めていると多くの方に慕われ、非常に評価されている人であるとわかってきました。
記念館では個人で収集した林谷さん以外の作品も展示してもらい、お子さんたちにも本物を見る機会にしてもらいたいと思います。」
瀬戸内海歴史民俗資料館学芸員 松岡明子さん
「展示される作品の中でも林谷を語る上で重要な『浅間山』の画帖や著名な文人も共通して残してきた『月ヶ瀬』の画は特に注目したい作品。
地元にあったものもこの記念館に収められると聞いているので、かなり大事な林谷に関する資料が集まる場所になると思いました。
ここが細川林谷の情報発信の中核施設になることを期待しています。」
細川林谷研究家 高松市立香東中学校教員 田淵元博さん
「小中高校でも学校の指導要領が大きく変わり、これからは生徒が自分の意見を言い合えるように進めていく時代になっていきます。
細川林谷や平賀源内はその議論の対象となり得る作品であり、人によっていろんな解釈が成立し、子どもたちが議論できるものだと思います。
文化財をそうやって活用し、我々教員はそれらをわかりやすく学習の補助に仕立てることができればいいと思います。」
さぬき市大山茂樹市長
「本物を直に見ることによって何か感じてくれる子どもたちが出てきてくれれば、世の中に対して大きなことをしてくれるのではないかという期待があります。
そういう感性を磨く場所を作りたいと思っていたところ、細川さんからありがたいご支援を頂きました。
市長としてどうすれば子どもたちも含むさぬき市民が幸せになるかを考えているが、ひとつ上の質の良さを実感することができれば新しい形の地域社会ができるのではないかと思っています。
本日3名の方から頂いた貴重な意見を参考に、細川林谷さんの記念館建設を今後も進めていけたらと思います。」
これまであまり見えなかった細川林谷という人物像がくっきりと見え、身近に感じられるようになったシンポジウム。
さぬき市出身の文化人として多くの方に愛され、仲間と共に自分が生きた時代を楽しみ、後世に残してきた細川林谷さんの世界を新しい記念館で楽しんでみたいと思いました。
「(仮称)細川林谷記念館」のオープンまでは2年弱ありますが、完成の日が楽しみに。
オープンの際は本物の芸術・文化を間近で感じに、足を運んでみてくださいね。
未来を拓く 細川林谷記念館・美術館のあり方を求めて
開催日時/2022年11月20日(日曜日) 13:30〜15:30
会場/寒川農村環境改善センター
定員:先着150名(入場料無料・事前予約必要)
お問い合わせ先/0879-43-2506(寒川農村環境改善センター)
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