香川県高松市から島々へと出発する玄関口、高松港。
瀬戸内国際芸術祭の会期中、掲げられているカラフルな漁網の作品『高松港プロジェクト(建築/佐藤研吾、アート/五十嵐靖晃) 』をご覧になりましたか?
高松設置の作品ですが、いま展示されているものは東讃地域のさぬき市・東かがわ市のみなさんも制作に関わりました。
地域を繋いで人を繋ぎながら網を編み足していくこの作品。
一体どんなテーマがあるのでしょうか?
『高松港プロジェクト』作家の五十嵐靖晃さんにお聞きすると共に、さぬき市志度で行われたワークショップの様子をご紹介します。
『高松港プロジェクト』は高松港に漁網を掲げて港を彩ることで、島に向かう人を送り出し、帰り道の目印として、人と島と海の記憶を繋ぐもの。
2013年の瀬戸内国際芸術祭から香川県の与島5島や香川西部の島で、地域の方と網を編み上げながら制作されてきました。
今年の芸術祭では、まず春会期に豊島・女木島・男木島・小豆島の人たちが制作されたものを高松港に掲げ、それに編み足すような形で、夏会期の会場となる引田・志度・津田エリアの人たちが制作したものを展示します。
6月にはさぬき市志度でも制作ワークショップが開催されました!
事前予約制ではなく当日飛び入り参加OKという気軽なスタイル。
2日間ともに多くの方が訪れてハイペースで作品が出来上がっていきました。
漁網の材料は実際に漁師さんが使っている網用のナイロン糸。
5色用意されており、イエロー・グリーンはもともとある色ですが、グレー・ブルーはわざわざ白い糸を染めています。
これらの色は五十嵐さんがイメージする瀬戸内海の色。
時間帯や天気によって様々に変わっていく海。
とある島では「昨日の海、こんな色だったよ」と編みながら教えてくれる方もいたのだそう。
実際に漁師さんが漁網を手編みするときに使う道具で編み上げていきますが、用意されたものには『沙弥 新栄丸』などの島の漁船の名前が!!
かつて漁師さんが使っていたものを「もう使わないから」と譲っていただいたのだそう。
志度にやって来る前に引田のみなさんが編んでくださった漁網。
和室のベランダからピンと張ったロープに吊るした状態で編み込み作業を行います。
漁網の目の大きさは漁師さんが獲りたい魚の大きさに合わせて決めるものですが、これは初めて編む人も編みやすい大きさに設定。
また、出来上がった作品をカーテンみたいに垂直に空に下げるので網越しの風景を楽しめるようにと考えられています。
編み方は実は世界共通なのだとか!横に10回行けば次の段へ移動するというルールがあります。
「慣れたら誰でも簡単に編めるようになるわよ〜」と、もはやベテランの域に達した地元の方に言われて自分もチャレンジしてみることに!
右手に糸、左手に竹の小さな板を持って、網をしっかり引っ張りながら板に糸を巻きつけて結び目を作ります。
この時に結び目の位置が綺麗な横並びになること、糸が緩まないように玉をぎゅっと締め上げるのがポイント。
自分はゆるゆる〜に結び目を締めてしまったため、前の方が作ってくださっていた段からガタガタに…
こうなると後続の段もずれていくため一度解かなくてはなりません。泣
『最初はわたしも何度も解いたわよ〜』とみなさんがなぐさめてくれて、再びやる気に!!
編み方を覚えた方が新しくお手伝いに来てくれた方に教える。
それが五十嵐さんのスタイル。
同じ地域に住んでいても会話することがない世代の方とお話ができるのもこのワークショップのいいところ。
わきあいあいとレクチャーが行われていました。
教えてもらったらみんな真剣! 黙々と作業が進んでいきます。
年齢関係なく、みんな編む作業って結構好きなんだなあって思う瞬間。
会場に一番乗りだったのは地元で漁師をしていたおじいちゃん。
まさに本職!「こんなんをいつも網みよったんじゃ〜」といいつつ、すっすっと編み上げていきます。
そのスピードの速いこと!!!
「みなさん、休憩ですよ〜」と声をかけられても誰も手を止めず…
あまりにも熱中し、あっというまにその日のノルマが達成できてしまったワークショップでした。笑
ご夫婦で参加されている方もいらっしゃって、「作業は難しいけど、作品が展示されて『ここ、自分が編んだところ!』というのが楽しみ」と旦那さん。
瀬戸内国際芸術祭サポーターこえび隊のみなさんは地元の方が作業をしやすいように、横で糸を巻いたり整えたり。
まさに瀬戸芸の縁の下の力持ち!!
ベランダに出ると、みんなが編んでいる漁網が志度湾につながっているように見えるのも素敵でした。
作家の五十嵐靖晃さんは、人と人が協働することで、その土地の暮らしと自然とを美しく繋いで、景色を作り変える表現活動をされてこられた方。
2013年・2016年・2019年の瀬戸内国際芸術祭では『そらあみ』というタイトルで同様の漁網を県内島嶼部で制作してきましたが、今回のワークショップをきっかけに、初めて香川県の東側に訪れたそう。
(『高松港プロジェクト』アート担当 五十嵐靖晃さん)
「今日は芸術祭が自分たちの街にやってくるということで、小さなお子さんから高齢の方まで参加してくれて、あったかい雰囲気になりました。
このワークショップは、網を編むことで豊かな時間を経験してもらえるもの。
魚網はもともとお魚を取るために人類が考え出した手法ですが、いつしか機械編みになって、現代では網を編む時間はほとんどありません。
道具としては機械で編んだものを使うのが主流となってしまったけれど、コミュニケーションの時間として網を編むのはとても豊かな所作だと思います。
瀬戸内の海際の人たちはずっとこういう風景が身近にあって、そこに流れていた豊かな時間に触れる機会になればと思っています。
自然と網がそういう空気を作り出してくれますが、ここでも誰かと誰かが伝えあったり、話したり、子供と遊んだりして、それぞれの楽しみ方で時間を過ごしている。
こういう風景が僕も見たいと思っています。」
この日ある程度まで編み上げた漁網は、翌日に津田エリアのみなさんが制作に入り、その後東京・丸の内でも制作が行われ、春会期からの網につなげるように8月1日に高松港に掲げられました。
4mの高さからカーテンのように吊り下げられた漁網。
不思議なことに網越しの青空は透き通って見えて、白い糸の部分を白い雲が通ればそこも透明に見えてきます。
正面から見ると背景は透けて見える景色も、斜めから見てみると色が着くという面白い効果も楽しめます。
ぐっと近づくとあの日編む作業を行っていたみなさんの顔が思い浮かんできました。
さぬき市のみなさんも制作に関わった『高松港プロジェクト』の展示も8月31日までの展示です。
瀬戸内海とともにじっくり鑑賞してみてくださいね。
港では同じく8月31日まで「Cộng Moments〜食と手仕事と雑貨のベトナムマルシェ〜(15:00〜20:00)」も開催されています。
ベトナムの工芸品やベトナムコーヒー、フォー、バインミーといったベトナムグルメの屋台も。
併せて楽しんでみてはいかがでしょうか?
瀬戸内国際芸術祭2025夏会期 志度・津田エリアの情報はこちら↓
高松港プロジェクト
作家/五十嵐靖晃
展示場所/高松港
開館時間/屋外展示作品・会期中無休
鑑賞料金/無料
作品ページ https://setouchi-artfest.jp/artworks/detail/a965cf2e-f7f7-448e-a94f-eb819c9fa207
瀬戸内国際芸術祭2025
会期/春会期 2025年4月18日〜5月25日・夏会期 2025年8月1日〜8月31日・秋会期 2025年10月3日〜11月9日
※さぬき市での開催は夏会期のみ


